私 あの人のお店に行きたい・・


毎月行く老人施設でのヘアカット・・


車いすに乗ってきた おばあさん。

 

初めての方。

 

髪質は細く 頭皮が見えるくらいに白髪で薄毛

 

白髪が余計に頭頂部を薄く見せる。

 

髪の長さは肩ぐらい。

 

「どのくらいに切ります?」

 

「・・・適当に・・・」

 

笑顔もなく 無表情・・・

 

「じゃぁ ふんわりボリューム出るようにしておきますね」

 

「・・・・」

 

 

切り始める。

 

会話はない。

 

 

トップを切り終えたぐらいの時

 

「癌でね・・髪抜けて・・白髪染めもしたいんだけど

 

 体質が変わってカブレやすくなって・・髪もペタンこでさ

 

 鏡観るのが嫌いなの」

 

語り始めた。

 

 

全体を切り終え 調整するため乾かしはじめて僕が

 

「ほら!こんなにフンワリするでしょ?確かに髪 細くて量も少ないけど

 

 それ以上に伸ばしっぱなしで 髪形として切ってないから 上も伸びすぎて

 

 髪自体の重さでぺったんこになってたんですよ。 だからちょっと

 

 短めに切らせてもらったんだけど そうすればホラ!こんなにボリューム

 

 でたでしょ?もう乾かせば勝手にフンワリするから大丈夫!

 

 カラーはね 確かにカブレやすいならやめた方がいいね。でもね

 

 ヘナってあるの。草の粉末で染めるんだけど それも100%カブレない

 

 ワケじゃないんだけど 普通のカラーよりは全然安全。ヘナにもいろいろあるから

 

 信用できない店じゃ心配っちゃ心配だけど 言ってくれればいろいろ方法考えるから

 

 家族の方に言ってみて。自宅でもできないわけじゃないし」

 

「あなたがここでは出来ないの?」

 

「ごめんね~ カラーとか職員の人にも負担かかるから 多分できないの」

 

 

おばあさんは それでもフンワリした髪に喜んでくれて

 

「ありがとう」と笑顔で言ってくれた。

 

車いすを介護職員の方が押して エレベーターホールに消える瞬間

 

「わたし あの人のお店に行きたい」

 

そう はっきり言ってくれた。

 

 

 

認知症で 何にも分からなくなっているおじいさんが

 

最初は暴れて暴れて仕方なかったんだけど

 

1年くらいたったくらいから 自分から椅子に座るようになった。

 

「認知症の方でも 「嬉しい」「楽しい」と心が震える事は ちゃんと

 

記憶できるみたいですよ。」

 

そう言われたこともある。

 

悲しいかな それ言われて すぐにそのおじいさんは死んじゃったんだけど・・

 

 

ご遺族の方に「きれいな髪で旅立てました」と言葉をいただいた。

 

 

昨日の記事の「奇跡」はまだ起こせないけど

 

嬉しいことがもらえるから 続けていけるんだよな。